Xで何を書いたら裁判になる?|実際の訴訟事例から見る「誹謗中傷」の境界線

Xのスマートフォンと裁判の木槌を背景に、「Xで何を書いたら裁判になる?」「誹謗中傷の境界線」と表示されたイメージ画像

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X(旧Twitter)は、誰でも気軽に意見を発信できる便利なSNSです。

政治、芸能、ニュース、身近な出来事について、「自分はこう思う」と発信することもできます。

しかし、その気軽さの一方で、

「これを書いたら訴えられるのでは?」

「批判と誹謗中傷の境界はどこ?」

「リポストしただけでも責任を問われる?」

と不安になることがあります。

実際、日本ではX上の投稿をめぐって、名誉毀損や名誉感情の侵害などを理由とする裁判が起きています。

重要なのは、「Xだから特別に危険」なのではなく、ネット上でも現実社会と同じように、他人の権利を侵害すれば法的責任が生じる可能性があるということです。

この記事では、実際の裁判例を見ながら、Xで何を書いたら問題になりやすいのかを整理します。

まず知っておきたい「名誉毀損」と「侮辱」の違い

Xの投稿で問題になりやすいのが、刑法上の「名誉毀損罪」と「侮辱罪」です。

大まかに言えば、

  • 名誉毀損=具体的な事実を示して、社会的評価を低下させる
  • 侮辱=具体的な事実を示さず、公然と人を軽蔑する

という違いがあります。

例えば、

「○○さんは会社のお金を横領している」

という投稿は、具体的な事実を示しています。

一方、

「○○は最低の人間だ」

「○○はバカだ」

などは、具体的な事実を示さず相手を侮辱する表現に該当する可能性があります。

法務省も、インターネット上の誹謗中傷について、虚偽の情報によって社会的評価を下げる「名誉毀損」と、具体的な事実を示さず一方的にけなす「侮辱」を区別して説明しています。

しかも、侮辱罪は2022年の法改正によって法定刑が引き上げられました。

つまり、

「ただの悪口だから大丈夫」

とは考えないほうが安全です。

実際の裁判例①「性被害をめぐる中傷投稿」――投稿だけでなくリポストも問題に

Xをめぐる有名な事例の一つが、ジャーナリストの伊藤詩織さんをめぐる名誉毀損訴訟です。

漫画家のはすみとしこ氏が、伊藤さんを揶揄するイラストをTwitterに投稿したことなどをめぐり、訴訟になりました。

東京地裁は2021年、投稿者に88万円、問題の投稿をリツイートした男性2人にも、それぞれ11万円の支払いを命じました。

その後、東京高裁では投稿者への賠償額が110万円に増額され、リツイートした男性についても22万円とされました。

最終的に最高裁が上告を退け、高裁判決が確定しています。

ここで重要なのは、

「自分で最初の中傷を書いていないから大丈夫」とは限らない

という点です。

他人の投稿をリポストする行為でも、内容や状況によっては法的責任を問われる可能性があります。

この事例から分かること

Xでは、

「私は投稿しただけ」

「私はリポストしただけ」

という区別だけで判断することはできません。

拡散する行為そのものが、権利侵害との関係で問題になる場合があります。

実際の裁判例②「いいね」でも責任を問われたケース

さらに興味深いのが、「いいね」をめぐる裁判です。

伊藤詩織さんが、自身を中傷するTwitter上の投稿に「いいね」を押したことについて、杉田水脈氏に損害賠償を求めた事件です。

東京地裁では請求が退けられましたが、東京高裁は判断を変更し、「いいね」を押した行為について名誉感情を侵害したとして55万円の賠償を命じました。

その後、最高裁が上告を退け、判決が確定しました。

ただし、ここから、

「Xで人の投稿にいいねを押したら裁判になる」

と一般化するのは適切ではありません。

裁判では、その「いいね」だけを切り離して判断したわけではありません。

投稿した人物との関係、過去の言動、投稿内容など、具体的な事情が総合的に考慮されています。

したがって、

「いいね=違法」

ではありません。

重要なのは、一つの操作だけではなく、その行為がどのような文脈で行われたのかです。

実際の裁判例③「ゴミ」「死ね」「倒産しろ」――強い言葉も場合によっては違法に

企業について、

「ゴミ」

「死ね」

「倒産しろ」

などとXに投稿したことが問題になった裁判例もあります。

東京地裁は2023年4月17日の判決で、芸能プロダクションに対するこれらの投稿について、会社の社会的評価を低下させるものとして、発信者情報の開示を認めました。

ここで重要なのは、

「これは単なる感想だから自由」

とは必ずしもならないことです。

企業や人物について批判すること自体は、当然ながら表現の自由として認められる重要な行為です。

しかし、表現が社会通念上許される批評の範囲を超えれば、違法と判断される可能性があります。

例えば、

「このサービスには問題があると思う」

という意見と、

「この会社は犯罪をしている」

という事実の摘示では意味が大きく違います。

特に後者は、事実が真実なのか、根拠があるのかが問題になります。

実際の裁判例④「いじめの主犯」と事実無根の投稿――匿名でも投稿者は特定される

2021年、旭川市で起きた女子中学生の死亡問題をめぐり、X上で無関係の男性をいじめの加害者として扱う投稿がされました。

投稿には実名や顔写真などが含まれ、「主犯」などと断定する内容が含まれていました。

旭川地裁は2024年7月25日、投稿者に対して損害賠償を命じています。

この裁判で注目されるのが、

「匿名アカウントだから投稿者は分からない」

とは限らないという点です。

裁判では、アカウントの登録情報、IPアドレスなどの通信記録、被告の生活状況などが検討され、誰が投稿したのかが認定されました。

匿名であっても、必要な手続きを経て発信者情報が開示されれば、投稿者が特定されることがあります。

さらに、この事件では、社会的に注目されていた事件に便乗し、無関係の人物を加害者と断定したことが問題になりました。

実際の裁判例⑤「批判だからOK」とされたケースもある

ここまで読むと、

「Xでは何を書いても裁判になるのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、そうではありません。

2023年4月13日の裁判例では、X上で他のユーザーの投稿について批評した投稿について、名誉毀損や侮辱に当たることが明らかとはいえないとして、発信者情報の開示請求が認められませんでした。

裁判所は、問題となった投稿が、相手方の投稿を批評する目的で行われたものであり、その内容も批評として社会的に相当な範囲内にあると判断しています。

これは非常に重要なポイントです。

つまり、

「相手が不快に思った=違法」ではありません。

社会的な問題について批判したり、他人の意見に反論したりすることまで禁止されているわけではありません。

では、どんな投稿が危険なのか?

実際の裁判例を整理すると、Xで特に注意したいのは次のような投稿です。

①確認していない事実を「事実」として断定する

例えば、

「○○は会社のお金を横領した」

「○○は犯罪者だ」

「○○は詐欺をしている」

などです。

もし根拠のない情報なら、名誉毀損につながる危険があります。

特に、

「~らしい」

「聞いた話だけど」

と付ければ安全になるわけでもありません。

実質的に事実を広めていると判断されれば、問題になる可能性があります。

②「死ね」「バカ」など、人格そのものを攻撃する

具体的な事実を示していなくても、相手を公然と侮辱すれば、侮辱罪や民事上の責任が問題になることがあります。

法務省は侮辱について、具体的な事実を示さず、不特定または多数の人が認識できる状態で軽蔑を示すことなどを要件として説明しています。

特に、

「あいつは人間として終わっている」

「バカ」

「クズ」

など、相手の人格を直接攻撃する表現を大量に繰り返す場合は注意が必要です。

③個人情報をさらす

誹謗中傷という言葉から「悪口」だけを想像してはいけません。

例えば、

  • 自宅住所
  • 電話番号
  • 勤務先
  • 家族の情報
  • 私生活に関する情報
  • 顔写真
  • 本人が公開を望んでいない情報

などを勝手に公開することも、プライバシー侵害などの問題につながります。

特に怖いのが、

「本人の名前を書いていないから大丈夫」

という考え方です。

名前がなくても、投稿を見た人が「誰のことか」を特定できる場合があります。

④リポスト・引用・いいねも「完全に安全」ではない

Xでは、自分で文章を書く以外にも、

  • リポスト
  • 引用ポスト
  • 返信
  • いいね
  • 画像の転載

など、さまざまな形で情報を拡散できます。

しかし、操作方法が違うからといって、法的責任が完全に別物になるわけではありません。

特に、

「この情報は本当なのか?」

と疑わしい情報を、さらに広める行為には注意が必要です。

「批判」と「誹謗中傷」は何が違うのか?

ここがこの記事の一番重要なところです。

例えば、政治家について、

「この政策には反対だ」

「この発言には問題があると思う」

「私はこの政策では生活が改善しないと思う」

という発言は、基本的には意見・論評です。

一方、

「あの政治家は裏で犯罪をしている」

のように、具体的な犯罪行為を事実として断定すれば、話が変わります。

つまり、

人や企業の行動・政策を批判すること

と、

根拠のない事実を使って人の社会的評価を落とすこと

は区別して考える必要があります。

法務省も、インターネット上の表現について、名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害などを別々の人権侵害類型として整理しています。

Xに投稿する前の「5秒チェック」

投稿ボタンを押す前に、次の5項目を確認するとよいでしょう。

チェック1

これは事実なのか、私の意見なのか?

チェック2

事実なら、その根拠を示せるか?

チェック3

相手の人格そのものを攻撃していないか?

チェック4

本人が公開していない個人情報を含んでいないか?

チェック5

その投稿を本人の目の前でも言えるか?

特に重要なのは、

「怒っているときほど投稿しない」

ことです。

一度Xに投稿すると、スクリーンショットや引用によって、自分が削除した後も情報が残ることがあります。

「裁判になる=すぐ逮捕」ではない

ここも誤解されやすいところです。

Xで問題になるケースには、

  • 民事上の損害賠償請求
  • 投稿の削除請求
  • 発信者情報開示請求
  • 刑事上の名誉毀損罪・侮辱罪
  • プライバシー侵害などに基づく請求

などがあります。

つまり、

「裁判になった=刑事事件になった」ではありません。

実際には、投稿者の特定から始まり、削除、損害賠償などの民事手続きが問題になるケースもあります。

匿名アカウントでも安心とは限らない

「匿名なら大丈夫」と考えるのは危険です。

被害を受けた人は、一定の要件のもとでプロバイダなどに発信者情報の開示を求めることができます。

法務省も、インターネット上では加害者の特定が困難な場合がある一方、プロバイダなどに対する発信者情報の開示請求や削除依頼などの救済手段があると説明しています。

実際、旭川地裁の事例では、匿名アカウントの投稿者について通信ログなどが証拠として検討され、投稿者が認定されています。

結局、「何を書いたら裁判になる」のか?

一言でまとめるなら、

「人を批判したら裁判になる」のではなく、人の権利を侵害する表現をすれば、法的責任を問われる可能性がある

ということです。

特に注意したいのは、

根拠のない事実を断定する
↓
個人を犯罪者などと決めつける
↓
人格を激しく攻撃する
↓
個人情報を公開する
↓
その情報をさらにリポストして広める

というパターンです。

一方で、

「私はこの政策に反対だ」

「このサービスには問題があると思う」

「この主張には根拠が不足しているのではないか」

というような、根拠を踏まえた批評や意見まで禁止されるわけではありません。

まとめ|Xでは「怒り」より「根拠」を優先する

Xは、誰でも社会に向けて発言できる強力なメディアです。

だからこそ、

「言論の自由」と「他人の権利」は、両方を考える必要があります。

裁判例から見えてくるのは、単純に「悪口は禁止」ということではありません。

重要なのは、

  • 事実なのか意見なのか
  • 事実なら根拠があるのか
  • 誰について言っているのか
  • 社会的評価を低下させる内容なのか
  • 表現が許される批評の範囲なのか
  • 個人情報を公開していないか
  • リポストなどで情報を拡散していないか
  • 投稿全体の文脈はどうなっているか

といった事情です。

そして、最も安全なのは、

「相手を攻撃する」のではなく、「問題となっている事実や主張を批判する」

という書き方です。

「○○はクズだ」

ではなく、

「○○氏のこの発言には、私は問題があると思う。理由は○○だからだ」

と書く。

「○○は犯罪者だ」

ではなく、

「○○について、このような報道がある。ただし、現時点で裁判所による確定的な認定があるのかは確認が必要だ」

と書く。

このように、人格攻撃から事実・根拠・論点へと文章を移すことが、Xを長く安全に使うための基本になります。

SNSでは「強い言葉」のほうが注目を集めやすいことがあります。

しかし、投稿する前に5秒だけ立ち止まり、

「これは事実か? 根拠はあるか? 相手の人格を攻撃していないか?」

と考える。

それだけでも、思わぬトラブルを避けられる可能性があります。